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2012年9月22日 (土)

革新的=非現実的エネルギー・環境戦略

 人権侵害救済法案閣議決定という日本国にとって決定的な出来事があったのでそちらを先に書きましたが、19日の閣議においては国内原子力発電の今後にとっても重要な決定がなされました。14日にエネルギー・環境会議(※国家戦略会議の分科会)が決定した「革新的エネルギー・環境戦略」<内容はこちら。※pdfファイルです>について、「柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する」とする文書を閣議決定し、戦略そのものの閣議決定は見送ったのです。
 「革新的エネルギー・環境戦略」の具体的内容についてはリンク先の公式発表文書をきちんと読んでもらうとして、簡単に言うと「原発依存度&化石燃料依存度を減らす基本方針達成のため、グリーンエネルギーを社会の基盤エネルギーとして確立し、エネルギーの安定供給を図りつつ、原発に依存しない社会を一日も早く実現する」ってことですかね。で、冒頭に「2030年代に原発稼働ゼロ」という文言があったことから、メディアは今回の戦略を「原発ゼロ宣言」と報じ(※実際は「原発稼働ゼロを可能とするよう、」と書いてあるのですが、そこはいつもの通り断言調で煽って報じましたな)、大騒ぎとなりました。
 騒ぎは、「原発が止まる!」という反原発側からの歓喜ではなく、「原発ゼロだと!?」という反論によってです。
 ほんのちょっと前まで、政府が行った討論型世論調査では原発比率「20~25%」案が13%/「15%」案が15.4%であったのに対し「0%」案支持が46.7%もあったとして、「原発0%こそが民意である!」「政府は国民の声に従うべき!」みたいな報じられ方をしていたにも関わらず、今回の「原発ゼロ宣言」に対しては強烈な批判ばかりが各所から政府に浴びせられました。他方、官邸前デモ隊主催者サマも、この「原発ゼロ宣言」が全原発即時停止ではないことから一切評価せず猛反発。さらに割合からすれば半数近くが賛成してくれるはずの“民意”とやらも「原発ゼロ宣言」に積極的に同意している雰囲気などどこにもなく……結局、戦略そのものの閣議決定は見送りという形となりました。
 今回の「原発ゼロ宣言」を公に批判した(と私が報道などで確認できた)のは、次の方たち。
・原発立地の各自治体(特に青森県と福井県)
・財界(経団連・日本商工会議所・経済同友会が異例の共同記者会見を開いてまで批判)
・自民党総裁選立候補中の5候補全員
・アメリカ合衆国政府
・イギリス駐日大使
・フランス駐日大使
・IAEA(国際原子力機関)
 かの民主党とはいえど、原発立地や財界、それに自民党から批判されるのはさすがに想定していたことでしょう。が、アメリカやイギリス・フランスにまで文句を言われ、さらにIAEAにまでイヤな顔されるとまでは思ってなかったんじゃないですかね?特にIAEAは「もんじゅ」廃炉方針に懸念を表したとだけ報じられているのですが、実際は「核燃料サイクル」におけるプルトニウムの扱いについて相当厳しい非難をくらったんじゃないですかね。で、恐くなってやめたんだと私は見ています。また、民主党の支持母体である連合も、今回の「原発ゼロ宣言」には反対したという記事も見ました(雇用喪失の観点から?単に電力総連の反発か?)。これも選挙を考えると痛かったんでしょうね。
 あと、官邸前デモ隊主催者サマが猛反発するって事ぐらいは当然読めていたと思いたいのですが(※彼らは政府のやることに賛成なんて絶対にしません。したら、自己否定で崩壊します。「反対」することにしか彼らには存在意義がないのですから)……官邸に客として招き入れるようなことをしたくらいなので、読めてなかったかもしれませんね。「これで反原発の票を取り込める」とちょっとでも目論んでいたとしたなら(前の首相なんかは「取り込める」と本気で思ってたんでしょう。相手がどういう人間かなんて、見ないし見ることもできない人みたいだし)、完全に失敗でしたな。
 さらに、いわゆる“脱原発”な一般的な人々の票も、取り込みには失敗したことでしょうね。14日に発表して以降、「原発の新設・増設は行わない」と明記しておきながら建設途中の原発の工事再開を許したり(「新設・増設」に厳密には該たらないとしても、新たに稼働する原子炉は「40年運転制限制を厳格に適用」すると「2030年代に原発稼働ゼロ」に矛盾する)、原発輸出は許すと言ってみたり(国内では「危険だからやめる」と言ってるのに、輸出するのか?)、もんじゅについても「研究を終了」と言及しておきながら「続ける」と言ってみたり……その上、閣議決定せず事実上撤回となったらね。誰も支持しません、というかできませんよ。
 そして、私のような原発容認派からは怒りを買いました。せっかく野田内閣は反対を押し切ってまで大飯発電所の再稼働をしてみせたというのに、その実績も帳消しになりましたよ。閣議決定を回避したことで、財界の怒りはひとまず収まったようですけど、政策が稚拙なまま決定を焦って迷走の上破綻するといういつもの調子を改めて見せつけられたら、普通の経営者なら呆れることでしょうね。
 ま、代替エネルギーの具体案はまるでなく「グリーンエネルギー」とお茶を濁し、「発送電分離と省エネ化とこれから新エネルギー研究開発すればなんとかなるって」とした書面を「これが革新的戦略だ!」なんてねぇ……この程度、書こうと思えば誰でも書けるんじゃないですか?「2030年代に原発稼働ゼロ」って、「40年運転制限制」をとるとしたら国内の多くの原子炉がその頃には廃炉になりますから、政府はほとんど何もしないで実現しうることなんですよ。「そうなったときに、実際どうするのか」ってのを予め決めておくのが「戦略」じゃないですか?なのに、「そこは、これから考える」という企画書ってどうです?世の企業の企画書って、こんなんで通るもんなのでしょうか?これをまとめたの、古川元久国家戦略相みたいなんですけど、実に残念ですよ。この人、もっとデキる人だと思ってたんですけどね。

 そもそも、こんな形にまとめられる根拠となった討論会での「原発比率0%支持=46.7%」って数字、これ本当なのでしょうか。
 その討論会で参加していた人を調査した結果の数字を見ればたしかにこの数字だったのでしょうから、「ウソがある!」「政府の陰謀だ!」などと騒ぎ立てたりはしませんよ。実際「原発をもしゼロにできるなら、ゼロになった方が良い」って考える人はそれくらいの割合でいてもおかしくはないでしょう。でも、この数字が、日本国民全体を反映しているようには私にはとても思えませんわ。
 だって、本当に国民の約半数が「原発比率0%」支持だったとしたら、今回の「原発ゼロ宣言」は「よくぞ言った!」「そうだ!やればできるんだよ!」ってな具合にもっと拍手喝采されているはずでしょう?割合からいけば世の中の半分がそうなるはずなのに、そんな人見ませんでしたよ?どういうことですかね。
 この点、「民主党が言ったって、ねぇ……」と民主党政権故に最初から“ペテン判定”していて、言うことを信用してない人が多かったってのもあるでしょう。
 しかし、実際は、「そんなことできるのか。電気足りないんじゃないの?」とか「しちゃったら、電気代高くなるんじゃないの?」とか、「原発ゼロにはできそうにない」という現実的な判断をしていた人が日本国民のほとんどだったように感じましたがね。少なくとも、私の周りではそうでしたし。
 にもかかわらず、新聞はあくまで世間は「原発比率0%支持」だと決めつけて「野田政権はゼロから後退した!こんなことは許されない!」みたいな報道、つまり「0%にできるのに、しないとは何事か」と書いているのが多かったけど、私はこういう見方も違うのではないか思いましたね。今回の「原発ゼロ宣言」は見送らざるを得なかった、すなわち今の日本では「原発をゼロにはできない」ということが政府の稚拙な紙切れのせいで逆に浮き彫りになってしまったのではないかと考えますよ。
 この討論会ってのがどんなものだったか映像で何度か見たんですけど、どこの会場でも反原発側の人間がやたら幅をきかせてて、「0%」以外の意見の人に罵声を浴びせている映像などもありました。また、「20~25%」案を主張する電力事業者側の人間は、彼らが騒ぎ立てたことから討論会から排除されました。結果、討論内容がかなり偏っていたのだと思います。「0%というのは、やはり現実的ではない」と常識的な判断をする機会が参加者から奪われていたのではないでしょうか。だから、一般人の感覚とは大きく乖離して討論参加者のみ「0%」の比率が異常に高い結果になっただけだったということが、今回の世間の反応で証明されたように思えますね。そして、電力事業者側つまりプロの意見が全く反映されていないってことは、討論が机上の空論になってしまっていて、前提に“現実”が欠落していたとも考えられます。そのために、政府が「原発ゼロ宣言」として発表した途端、その“現実”というものが噴き出してきて、しかも諸外国から超現実的な安全保障的観点まで突きつけられてしまい、「原発比率0%」の非現実的夢物語は完全に破綻した……今回の閣議決定見送りの本質とは、こういうことなのではないでしょうか。

 エネルギー問題というのは、あくまでも“現実”の問題です。
 空虚な理想論で着地点が見いだせるほど甘い話ではありません。ドイツでは専門家が議論を徹底的に尽くし自然エネルギー転換を具体策をもって決めましたが、それでも現実は厳しくフランスから原子力発電による電力の供給を受けつつギリギリの所で供給の安定を確保していると新聞で読みました。そのフランスでは、原発比率低下を公約にしたオランド政権が発足しましたが、未だに比率を下げる目処すら立ちません。“現実”は厳しいのです。私は前から「現状の原発比率維持」が持論ですけど原子炉新設が不可欠なので実現は厳しいでしょうし、「原発比率0%」の実現もさらに厳しい道と今回判明しました。今後の日本の舵取りには、それらの厳しさに立ち向かうだけの覚悟と真剣な討議が必要となるのです。
 なのに、民主党は時間も人材も予算も投じているにもかかわらず、選挙の票目当ての稚拙な紙切れを焦って公表してしまいました。そんなものが通用するはずもなく、結局破棄されたってことですよね。当然のことですよ。
 ただ、原子力発電の危険性は一朝一夕に低下することではありませんし、またその代替となり得るエネルギーの研究開発も一朝一夕では確立しません。地球温暖化防止や涸渇回避のため化石燃料依存度を下げることも必要ですし、エネルギーミックスの観点から再生可能エネルギー比率を高めることも悪いことではありません。国全体の省エネルギー化も、今後より必要性が増していくことでしょう。これらの問題に対し政府として総合的に取り組み本格的に進めていくと責任ある宣言をしたことについては評価できる、とも言えると思います。少なくとも、大阪維新の会(というか、その自称ブレイン連中)が無責任なエネルギー論をわめき散らしたり、反社会的勢力によるデモの名を借りた破壊活動を英雄視したりして、「そうだそうだ」と騒ぎたてるだけという一部の狂乱状態よりは、はるかにマシですから。

 「何でも反対したほうが偉い」みたいな最近の日本の風潮では必要以上に時間がかかってしまうでしょうけれども、半歩ずつでもいいから、現実を見て、対処しながら着実に、前へ進んでいくしかないでしょうね。

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