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2012年6月20日 (水)

除名は「弾圧」ではない

 世の中にはルールというものが存在します。人間というのは極めて勝手な生き物ですから、集団で行動するためには一定の規律が必要になります。作ったルールを守らない者にはペナルティを与えると決めておくことでルールを守るよう促します。本当にルールを守れない者が出た場合はペナルティを科します。ペナルティには普通、ルールを守らない度合いに応じて段階を用意しておきます。人間の集団の結束というのは脆いので、明らかに集団の和を乱す者は最終的に集団から排除することになります。これは集団の存続に関わるため、仕方のないことです。
 現代の複雑化した人間社会においては、さまざまな集団が構成されています。個人同士のつながりから、数人のグループ、チーム、企業、自治体、果ては国家であり、さらに国家共同体まで組織されていますね。で、それぞれの集団にルールがあります。グループレベルでも“決め事”みたいなものはあるでしょうし、チームレベルでも、各チームごとにルールはあるでしょう。国家レベルであれば憲法に始まり各種の法律以下さまざまな規則が設けられています。先に書いたとおり、人間というのは勝手な生き物なのでそうでもしないと集団では行動できないのです。そして、これらのルールを守らない者にはペナルティが設けられています。国家における刑法がその最たるものでして、刑法が死刑や懲役刑で社会から排除する刑罰を用意しているように、サッカーにおけるレッドカード(退場)など失格処分はどんなスポーツにもありますし、最近流行りのフレーズ「民間企業ならクビですよ、クビ」のクビ(解雇)など「集団から排除される処分」というのはどんな集団にも用意されています。

 今日、群馬県桐生市の市議会でとある議員が失職しました。議員の除名を求める懲罰動議が可決されたために、地方自治法135条により失職したのです。
 地方自治法135条に定める除名による失職というのは、地方議会が法律や会議規則や条例に反した特定議員を排除するという処分です。議会の自律権として認められており、議会を構成するメンバー(議員)が他の干渉を受けることなく自発的に「ここから出て行け」と退場を決定します。
 この議員サマはTwitter(@niwayamayuki)にて暴言を繰り返したため全国的に話題になった議員です。が、今回の懲罰動議はこの暴言も原因の1つではあるけれども直接的原因ではありません(マスメディアの報道を見ていると暴言だけが原因みたいにもとれますが、違います)。この議員は以前から桐生市議会の秩序を乱す行為で問責決議を繰り返し受けておりかつ以前5日間の出席停止という懲罰をも受けていたにも関わらず、今回さらに騒動を起こし、委員会にてその理由を問いただした際も真摯な態度を取らなかったが故に、規則に反し懲罰動議となったのです。そして、地方自治法135条2項及び3項で除名には「議員の定数の八分の一以上の者の発議」+「議員の三分の二以上の者が出席し、その四分の三以上の者の同意」という極めて厳しい特別多数の同意が必要とされているのですが、今回これをクリアしました(※桐生市議会は定員22名で、うち17名が発議。本件について本人と1名の退席者を除く20名で記名投票し、うち18人の議員が除名に賛成した)。もちろん市議会議員として多額の報酬を税金から受け取る身分である以上、地方議員の基本法である地方自治法はきちんと理解していなければなりませんし、「次やったら、除名になるからね?」という警告は受けていたはずですし、Twitterだブログだを見る限り本人も理解していたと見受けられます。にも関わらず、敢えて騒動を起こし説明も拒んだわけですから、議会から退場させられるのは当然の話。それこそ昨今のTVのコメンテーターもよく使う「民間企業ならクビですよ、クビ」ってことです。ルールがあるのに知ってて守らないなら退場、そういうことですよ。

 この人の言い分は全く支持できないし、議員という立場もわきまえない幼稚な態度に対する今回の除名処分を私は当然と考えます。一方、今回の除名処分に対して、議員(というか元議員)本人がどういうコメントを残そうとそれは構わないと思います。罵詈雑言であっても、表現は自由ですから、Twitterやブログでどうぞご自由に。
 問題は、世間の反応です。「この議員を支持する」ってのは言いたい人が勝手に言っていればいいのですけど(私には信じられませんが)、それでは飽き足らずに懲罰動議を「言論弾圧」「政治弾圧」と騒ぐ人間がネット上で少なくなかったのです。
 しかし、今回の処分はどちらにも該当しません。そもそも「弾圧」ではありません。
 「言論弾圧」とは国家機関や権力者による圧力で言論の自由が奪われることであり、「政治弾圧」は同様の圧力で政治活動の自由が奪われる様ということになるのでしょうが、今回の除名処分は同じ地位にある桐生市議会のメンバーが自主的に議会から退場させただけのことです。国家機関や群馬県や桐生市長などの権力者は手続に一切関与しておらず、また議場内での活動はできなくなりましたが元議員個人の言論の自由は一切奪われていませんし、政治活動とて何ら制限されず自由です。実際、次の市議会議員選挙で当選すれば、桐生市議会は除名された議員を拒むことができません(地方自治法136条)。したがって、今回の処分は「弾圧」では決してないのです。レッドカードを提示されたサッカー選手が、ピッチから追い出されるだけでサッカー選手として選手生命を絶たれるわけでも何でもないのと似たようなもの。レッドカードだと数試合出場停止とかになりますが、除名処分にはそれすらもなくいくらでも再起可能なんですから、「レッドカードより軽い処分」と言ってもいいくらいです(※サッカー選手と異なり一時的に失業はしますが、それは政治家という職業の特殊性ゆえ)。なのに「レッドカードは選手生命を絶つ行為だ」とでも言うかのように「除名処分は弾圧」と騒ぎ立てるなんて、誇張もいいところ。ちゃんちゃらおかしいわ。
 そこをわざわざ「これは弾圧」と表現し世間の同情を集めようとしている人間が少なくない上に、「そうだそうだ。これは弾圧だ」と安直に同意してしまう人間が日本に多数存在しているという事実に私は唖然としました。もちろん掲示板にしろTwitterにしろ「こんな酷い議員がいるなんて」という意見の方が大勢なのですが……私が見ている限りでも「弾圧」という言葉を使う人、それに賛同する人が結構いる。それがごく少数ならまだしも、大変な数がいる。これは、憂慮すべきことだと思います。
 まぁ、ネット特有の“煽り”もあるし、強い口調ばかりが注目され支持されるのがネットってこともあるのかもしれませんけど、「弾圧」ってものが何なのか知らない知ろうともしないくせにそういう表現をやたら使いたがる人間が増えたってことなんですかね。大層なことでもないのに大げさに騒ぎ続けているといざという時誰も助けてくれないってのはイソップ童話にもある通りなのですが、こんなことで「弾圧」などと表現していたら権力によって本当の「弾圧」が始まったとき誰も助けてくれなくなるんだけどな(はるかに重い公民権停止処分でさえ「弾圧」ではないのですよ?)。まったく、いい大人がみっともないことで。また、「弾圧」みたいな言葉は被害妄想の人がよく使う言葉であり、そして政治的には強度の反体制の側の人間(簡単に言うと「極左」)が日常的に使う用語でもあります。それに被害妄想の強い人間が側にいたら普通の人なら付き合いを避けますし、反体制にとらわれている人間の言い分なんて普通の人は聞かないものですし、私もそういう態度を取りますが、ネット上だとそうでもないんですかね?Twitterを見ていると、「こんな人でも同意しちゃうんだ」ってのを多々目にします。真っ当そうな実名社会人のアカウントが同意してたりするんですよねぇ……近年リアルで極右/極左の人を見ることがなくなったってのも関係しているのかもしれませんが(私はどっちの人間も知ってるんですけど、タイプこそ違えど両方とも最低最悪の人間です。冗談抜きで)、「強い口調=正しい主張に違いない」なんて錯覚してるとそのうち本当に大変なことになりますがね。若いうちならいざしらず、それなりの年齢の社会人だとつまらない誤解でさえ取り返しがつかなくなるんだけど。そんなこともわからず考えもせず、安直に同意してしまう大人がたくさんいるなんて、この国はどうなっちゃってるんだろう。そんなのがどっかの社長どころか一国の首相にまでなるご時世ですから、むしろ錯覚している方が偉いのかもしれませんけど……そんな首相はやはり退陣したし、そこまで人間腐りきってはいないと信じたいのですがね、私は。

 先に書いたとおり、今回除名された議員の言論活動も自由ですし政治活動も自由です。ですから、今後も一個人として勝手に活動してくれればいい。どんなに酷い言論だろうと、勝手にすればいい。
 でも、政治家という立場にあった以上、この人は政治責任というものを負っていました。その政治責任は、今回の処分では追及が不十分というか全くなされていないに等しいです。政治責任を追及するのであれば、その機会は次の桐生市議会選挙にこの除名された議員が立候補したときに訪れます。この人はおそらく、次の選挙に立候補するはずですよ。
 その選挙で、もしこの人が再び当選してしまったならば、行為は追認され政治責任を問う必要などそもそもなかったということになってしまいます。
 除名された議員は桐生市で生活する住民を愚弄し続けています。こんなことは市議会議員として許されてはならない行為と私は思います。であるならば、桐生市民の手で落選させることできっちりと責任を取らせるべきだと思いますね。それしか、この人に責任を取らせる方法はありませんから。まずはこの候補に投票しないというのが第一なのですが、たとえこの人が一定数の得票を得てしまうにしてもそれ以上の票が他の候補に入りさえすればこの人は落選します。前回の投票率が56.66%ということは、少なくとも43000票以上もの死票があるわけですし、それらが他の候補に入ればそれだけで責任を取らせることも不可能ではないのです。桐生市民の方々、よく考えてくださいね。

 おかしな政治家というのは今回の桐生市議に限らないってのがこの国の不幸なのですが、それは私たちがそんな政治家を選挙で選んでしまったために他ならないんですよね。
 よく考えるべきもまた、桐生市の人たちのみならず私たち日本国民全員ですかね。

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